英和辞書を設計していて見えた、日本人英語学習者の3つのつまずき【2026】

日本人英語学習者のつまずきは、発音・コロケーション・前置詞の3つに集中します。理由は共通で、どれも「単語と意味の1対1暗記」では身につかない領域だからです。英和辞書を設計する立場から、この3つの構造と、辞書の側にできることを書きます。
私は英和辞書 immitのプロダクトデザイナーで、辞書エントリの設計と監修を担当しています。その前は米国企業で働き、英語のドキュメントと会議に毎日囲まれていました。この記事は、その両方の経験から見えたものをまとめたものです。
なぜ「意味は知っているのに使えない」が起きるのか
中学から大学まで、日本の英語学習は「単語イコール意味」の暗記が中心です。単語帳の左に英単語、右に日本語訳。このフォーマット自体は悪くありません。語彙の入口としては効率的です。
ですが、渡米して働き始めた頃の私が最初にぶつかったのは、このフォーマットの限界でした。意味を知っている単語が、会議では聞き取れない。メールで使うと組み合わせが不自然になる。前置詞を1つ間違えて、意図と違う意味で伝わる。
つまずきの正体は語彙力ではなく、単語の「周辺情報」の欠落です。発音、コロケーション、前置詞。この3つは意味とセットで覚えない限り、後から接ぎ木するのが難しい領域です。
つまずき1:発音、カタカナ語が英単語の音を上書きする
日本人の発音のつまずきは、LとRの区別のような「音の作り方」より先に、カタカナ語の干渉で起きます。virus は「ウイルス」、theme は「テーマ」、allergy は「アレルギー」。日本語として定着した音が、英語の音を上書きします。
実際の音は、virus なら「ヴァイラス」、theme なら th の音で始まる「シーム」に近い形です。カタカナで覚えた単語ほど、正しい音を聞いたときに同じ単語だと認識できません。「意味を知っているのに聞き取れない」現象の多くは、ここから来ています。
アクセントの位置も同じです。カタカナ語は平板に発音されがちですが、英語の energy は最初の音節に強勢があります。強勢の位置がずれた単語は、ネイティブには別の単語に聞こえることがあります。
もう1つの干渉は音の数です。street は英語では1音節ですが、カタカナの「ストリート」は5拍に伸びます。自分の頭の中の音が実際より長い分、ネイティブの発話スピードに置いていかれます。
辞書を設計していて感じるのは、発音記号だけではこの問題を解決できないことです。/ˈvaɪrəs/ という表記をすらすら読める学習者は多くありません。文字ではなく音そのもので確認できる導線が、辞書の側に要ります。
つまずき2:コロケーション、単語帳の「1単語1訳」に載らない組み合わせ
コロケーションは「よく一緒に使われる単語の組み合わせ」です。日本語の「薬を飲む」は英語では take medicine で、drink medicine とは言いません。「決断する」は make a decision で、do a decision は不自然です。
単語帳で take は「取る」、make は「作る」と覚えても、この組み合わせは出てきません。コロケーションは単語単位の暗記の外側にある知識だからです。日本語からの直訳で考えるほど、不自然な組み合わせを作りやすくなります。
雨の強さは heavy rain、コーヒーの濃さは strong coffee。日本語ではどちらも「強い」で済みますが、英語では名詞ごとに相性の決まった形容詞が付きます。Cambridge Dictionaryのような英英辞典が定義より例文を厚くしているのは、この知識が例文の中でしか見えないからです。
私が辞書エントリを設計するときに繰り返し直面するのも、同じ場面です。訳語を1つ増やすより、例文を1つ増やす方が学習者の役に立つ。コロケーションは定義文では運べず、例文の形でしか渡せません。
つまずき3:前置詞、日本語の助詞と1対1対応しない
前置詞のつまずきは構造的です。日本語の助詞「に」は、英語では in にも on にも at にも to にも対応します。「会議に出る」は attend a meeting で前置詞なし。「電車に乗る」は get on the train。1対1の対応表が作れません。
discuss about のような間違いも、同じ構造から来ています。「〜について議論する」の「について」に引っ張られて about を足したくなりますが、discuss は目的語を直接取る動詞です。助詞からの類推が、そのまま誤りになります。
前置詞は単語ではなくパターンで覚える領域です。in the morning、on Monday、at 7 p.m. を別々のルールとして暗記するより、フレーズごと例文で覚える方が定着します。これも単語帳の1単語1訳フォーマットの外側にあります。
設計の現場では、前置詞そのもののエントリが最も悩ましい部分です。in の訳語は「〜の中に」だけでは足りず、時間・場所・状態・手段まで広がります。訳語を並べるより、典型パターンを例文で並べる方が実用に近づきます。